格差社会を描いた物語はたくさんありますが、それを究極の形にまで濃縮したものがこのハイ・ライズという高層ビルです。
1.あらすじ
医者のロバート・ラングは、階層ごとに階級がわかれている高層ビルに引っ越してくる。このビルを建築したロイヤルや、映像作家のワイルダーなどに会っていくうちに、住民の間では暴動が起き始める。
原作は、SF小説の大家J.G.バラ―ドの同名小説。彼の半自伝的小説である「太陽の帝国」は、スティーブン・スピルバーグ監督により映画化もされています。
2.魅力あふれるトム・ヒドルストン
トム・ヒドルストンと言えば、『マイティ・ソー』シリーズの悪役ロキで知られるスターです。彼の魅力は、危険なぐらいのセクシーさ。マーベル映画ではセクシーさが十分に生かされていないというのは、私がスカーレット・ヨハンソンについて言っていることですが、彼の場合もそう。
そんな彼が、『ハイ・ライズ』ではしっかり脱いでいます。ただでさえ、セクシーがあふれ出ているような男なのですが、脱ぐとやっぱりすごい。と言っている自分はストレートの男なのですが、それでもこれは惚れる。
彼は、ただセクシーなだけではありません。現代の俳優の中では、きっての演技派でもあります。ロンドンで上演された、シェイクスピアの舞台「オセロ」や「ハムレット」などにも出演しています。
印象的だったのは、ドラマ『ナイト・マネジャー』で演じていた、ホテルのマネジャーから潜入捜査に参加することになるジョナサン・パイン。これが、またセクシー。そして、潜入捜査の過程で、どっちの味方なのかがわからなくなってくるところの演技が見事でした。
『ハイ・ライズ』では、最初は普通に見えたものの、徐々に狂っていく人物を演じています。難しい役どころですが、さすがトム・ヒドルストンといった演技でした。
3.デザインは◎(ネタバレ)
『ハイ・ライズ』公式サイトがリニューアル致しました!新しく公開されました予告編&ヴィジュアルとともにお楽しみください。
— 映画『ハイ・ライズ』入居者募集中 (@HighRise_JP) June 24, 2016
公式HP https://t.co/YIbSOUaJCz
予告編 https://t.co/iZEjn0KXDk pic.twitter.com/Lr2bGSALYh
↑ポスターからしてハイセンス
映像は全体的に良い。きれいというか、とても洒落ています。コンクリートをむき出しにした高層ビルは、ル・コルビュジェ風で、現代的。重いテーマで、停電もよく起きるけど、暗すぎない画面はデザインとして好き。
39階から人が落ちてくるときに、車に衝突する直前だけスローモーションになるところとかは、かなりカッコいい。カッコつけてんじゃねえぞとも言われそうですが、カッコよく見せるのも映画だ。
そんな感じで、色や光、そしてセメントが顔に付いたトム・ヒドルストンの顔など、画としては自分は結構好み。非常に文学的な雰囲気もしますし、良いんじゃないかと思います。
4.脚色の難しさ
ストーリーに関しては、これは正直よくわからない。登場人物が多いし、起きる出来事も多く、そもそもこれを把握するだけでも大変。中には、ワンショットだけで何かの背景のようなものを説明していた節もあって、なかなかわかりにくい。自分もよくわかっていないので、解説はしないです。
このわかりにくさは、たぶん脚色に起因しているんじゃないでしょうか。そもそも小説の方が映画よりも多くを語れるものなので、原作の要素をすべて詰め込もうとしたら、映画が説明不足でわかりにくくなるのは当然でしょう。
『ハイ・ライズ』ではそんな現象が起きているような感じがします。原作がどうなのかは知りませんが、脚本に仕立てる脚色の段階でわかりにくくなってしまったような印象があります。
もしかしたら、原作を読んだことがあるという方には『ハイ・ライズ』は見事な映像化と見えるかもしれません。原作でストーリーを把握しているという人にとっては、その狂った世界を忠実に再現されていると感じることでしょう。
だから、この映画を理解したかったら原作を読みましょう。物語を理解したいなら、原作を読むべきだというのは、他の映像化作品についても言えることですが、『ハイ・ライズ』は特にそんな気がします。
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5.理解不能を楽しむ
確かに、この映画は単体では非常に理解しがたい内容ではあります。でも、それだけの理由で低評価をするつもりはありません。
しばしば言われるように、近年のメディアはわかりやすさを求めすぎるという風潮があるようです。特に、テレビではまるで視聴者を小学生のように扱い、すべてに関してわかりやすさを求めていると。
それが真なのかどうかはわかりませんが、こと映画に関しては、わかりやすければ良いというものでもありません。最近観たものだと、『ホテル・エルロワイヤル』はすごくわかりやすいんですけど、いまいちなんですよね。わかりやすすぎて、あんまり興味を引かれない感じです。
その点、『ハイ・ライズ』ぐらいのわかりにくさは、むしろ歓迎すべきことじゃないかとも思います。わかりにくいとは言っても、住民が暴動を起こしているのはわかるし、各人のポジションも何となくわかります。そこからは、自分で考えてみるという見方もアリなんじゃないでしょうか。あるいは、原作小説を読んでみるとか。
または、「人間ってよくわかんねえな」というのも良い。だって、この映画は人間が狂っていくさまを描いたものなので、別にわからなくても問題ないのかも。最近話題の『ジョーカー』論で、自分が一番好きなのは、「俺(アーサー・フレック)の気持ちがお前らにわかってたまるか!」というものなのですが、『ハイ・ライズ』もその論理で捉えても良い気がします。
6.まとめ
要するに、原作を読みましょうということ。そうすれば、たぶん色々わかってきて、面白いんだと思います。原作抜きにしても、デザイン的には優れていて、トム・ヒドルストンもセクシーだし、映像作品としての一定の価値はあるでしょう。
硬い話が続いてしまったので、最後にハイ・ライズに入居される際のマナーを示しておきます。自分はいくらもらっても、住みたくないですが(笑)
↓適度に難解な映画をもう一本