映画の並木道

古今の映画や海外ドラマについて紹介しています。ネタバレは基本的になく、ネタバレするときは事前にその旨を記しています。

映画『π』~狂気の数学者~

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 私、理系大学生をやっています。なので、『π』(1998年)なんて題名の映画があったら当然目がいってしまいます。時間も85分と短いので、白黒映画でしたが見てみました。

 

 

1.あらすじ

 数学に関して天才的な能力を持つマックス・コーエンは、日々自作のコンピュータを用いて株価予想をしていた。彼の信条は、「世界のすべての事象は数式で理解できる」というもの。ある日、コンピュータはあり得ない株価予想をし、それとともに216桁の数字をはきだした。しかし、翌日になりその株価予想がピタリと的中していたことにっ気付き、コーエンは216桁の数字に興味を抱く。師である元数学者に聞いたところ、彼はπの研究中に216桁の数字に出会ったと言い、偶然出会ったユダヤ教神秘主義者も216桁の数字を見つけたことがあると言った。コーエンはこの216桁の数字こそが神の数字だと確信し、研究に没頭するが…。

 

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 監督はダーロン・アロノフスキー。『ブラック・スワン』(2010年)がまあまあ有名。本作は低予算ながら、インデペンデント映画を対象とするアメリカのサンダンス映画祭で最優秀監督賞受賞。

 

2.クールな音楽と映像

 予告編見てもらえば分かるけど、このテクノ調の音楽。カッコいい。モノクロの画面にこの音楽というのが良い。これで、クラシックとか流したら寝ちゃうかもしれないけど、テクノは良いアクセントになっている。

 

 実は、映像も良いんです。90年代なのに白黒だし、画質も荒いんだけど、そこは撮影で魅せる。印象的なのが、動きのある場面でも人物の顔を中心に据えているところ。『キングスマン』(2015年)では、足のつま先を中心にしたアクションシーンがあるんだけど、この先駆けみたいな感じ。だから、映像もスタイリッシュなところがあって好き。

 

3.すごく面白そうなんだけど…(ネタバレあり)

 良いことだけ言っていても仕方ないです。難点があったら、ちゃんと言いましょう。あらすじとか予告編を見ると、この映画ってすごく面白そう。映画を見ててもそう思った。不思議な数字を発見してしまって、様々なことに巻き込まれていく展開とかはかなり引き込まれる。そう、終始この映画は「面白そう」なのだ。ただ、着地点がちょっとすっきりしない。結局、色々なことをうやむやにして終わらせてしまった気がする。数字に取りつかれた男の狂気を描くというのなら、これで十分なのかも。

 

 でも、株やってる人たちとかの狙いが今一つ判然としない。彼女たちは、その数字が本当に有用だと信じていたのだろうか?少なくとも、コーエンは例の数字を本当に世の中を支配する数字だと信じていた。神秘主義者たちも信じていた。だが、他の人たちはどうだったんでしょうね?

 

4.理系映画として

 残念ながら、本作を理系映画というのには抵抗がある。狂気の数学者という点では、確かに見ごたえはあります。実際に、数学者には変わった人が多い。だが、タイトルの割に数学要素がほとんどないのだ。数字はたくさん出てはくるが、あくまでも数字の羅列として。πも、師の元数学者が言及するのみで、本質とはあまり関係がない。数学に関するエピソードもいくつか出てくるが、どれもアルキメデスの「エウレカ」程度の誰でも知っているような話である。

 

 だから、本作を題名につられてガチガチの理系映画だと期待するとかなりがっかりします。そのような視点はいったん置いておいてから観賞しましょう。

 

5.まとめ

 思うのは、哲学系映画の入門としては良いんじゃないかということ。時間が短いので、それほど退屈せずに見られる。だけれども、難解なストーリーや独特の映像表現が堪能できる。そういう意味では、見てみて良いと思う。これが面白いと思ったら、『2001年宇宙の旅』(1968年)は絶対見た方が良い。これはそういう風に人を選ぶ作品だ。