イギリスのBBCのドラマはハイクオリティなものが多いです。このドラマは、そんな考えを確信させてくれるものでした。今回は、イギリスBBC制作のドラマ『刑事ヴァランダー』シーズン1の紹介です。ネタバレなし。
あらすじ
スウェーデンの街イースタの刑事ヴァランダー。仕事一筋の男で、妻とは別居している。そんなヴァランダーの元には、今日も事件が舞い込んでくる。
主人公のクルト・ヴァランダーを演じるのはケネス・ブラナー。シェイクスピア作品の出演・監督でキャリアを築いたのち、近年は『マイティ・ソー』『シンデレラ』『オリエント急行殺人事件』などの監督もしています。ヴァランダーとともに捜査を行う新米刑事のマーティンソン役で、トム・ヒドルストンも出演しています。
実は北欧ミステリー
事前情報をあまり入れずに自分は見始めたのですが、どうも普段の英国ミステリーとはちょっと雰囲気が違うなあと感じました。『刑事モース』や『刑事フォイル』って、もっと事件の謎にフォーカスした構成をしているんですよね。この傾向は、英国の推理小説も同様。
気になって調べてみたら、やはり原作はスウェーデンの作家へニング・マンケルの小説でした。それなら、納得。北欧ミステリーといえば、例えば小説や映画で有名な『特捜部Q』シリーズがありますが、『刑事ヴァランダー』は英国ミステリーよりはこっちに近いです。
北欧ミステリーの特徴は、英米・日本のミステリーに比べて、より主人公の心情に重点をおいた構成が一つ挙げられます。また、扱われる事件やその展開も、かなり悲惨なものが多いです。ビジュアルが悲惨というよりは、子どもが殺されたりといった暗い気分になるタイプの悲惨さです。
ヴァランダーが遭遇する事件もそういったものが多々あります。そのため、ヴァランダーは辛すぎる現実を毎回目の当たりにすることになります。シーズン1第1話も、ヴァランダーの目の前で少女が焼身自殺をするところから始まっています。そういった事件に遭遇する度に、ヴァランダーは深く傷つきながらも、事件解決のために捜査を続けていきます。
ちなみに、本作の舞台はスウェーデンなのですが、撮影も実際にスウェーデンで行われています。そのため、海や林などの自然はとても美しい。そのことで、さらに事件の悲惨さが際立って見えてきます。
ケネス・ブラナーの演技が光る
物語は基本的に、ヴァランダーを中心にして進んでいくことになります。ヴァランダーにも同僚はいますが、聞き込みなどの調査は一人で行っていることがほとんど。ヴァランダーの感情の機微が深く描写されているのも特徴的です。
このヴァランダーを演じるケネス・ブラナーの演技が良いんですよ。ヴァランダーは、物静かで、同僚や友人との交流もあまりない感じの男です。でも、悲惨な事件に対する怒りや、やるせなさといった強い感情を常に抱えています。そういったものが、ケネス・ブラナーによって見事に表現されています。
『オリエント急行殺人事件』でケネス・ブラナーがポアロを演じていたときは、付け髭があまりに大きすぎてふざけているようにも見えましたが、ヴァランダーは彼にとってはまり役。おじさんなんだけど、堪らない人間的魅力を放っています。シャーロック・ホームズのような超人型探偵とは違い、普通の人々と同じように悩み苦しむヴァランダーには、どこか共感できるところもあるのではないでしょうか。
追記:2020年9月3日から、Netflixで刑事ヴァランダーの若き日を描くドラマ『新米刑事ヴァランダー』が配信されます。こちらも舞台はスウェーデンなのですが、やはり話す言語は英語のようです。