映画の並木道

古今の映画や海外ドラマについて紹介しています。ネタバレは基本的になく、ネタバレするときは事前にその旨を記しています。

映画『タロットカード殺人事件』~アガサ・クリスティ×ウディ・アレン~

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 ウディ・アレン味がありましたねえ。今回は、ウディ・アレン本人が出演しているということで、いつもよりもウディ・アレン味が強め。

 

 この記事が何分で読めるかは知りませんが、ウディ・アレンという言葉が21回出てきます。

 

 

1.あらすじ

 ロンドンを訪れていたジャーナリスト志望の女子大生サンドラ・プランスキーは、マジックショーの最中に敏腕ジャーナリストの亡霊に出会い、巷を騒がせている「タロットカード殺人事件」の犯人は富豪のピーター・ライマンだと告げられる。そこで、証拠集めのために、サンドラはマジシャンのシドと協力し、ピーター・ライマンに近づく。(2006年公開)

 

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 監督は、ニューヨーク出身のウディ・アレン。『アニー・ホール』(1977年)、『ミッドナイト・イン・パリ』(2011年)、『教授のおかしな妄想殺人』(2015年)などを撮っています。普段はニューヨークを拠点に活動することが多いのですが、『マッチポイント』(2005年)、『タロットカード殺人事件』(2006年)、『ウディ・アレンの夢と犯罪』(2007年)はロンドンを舞台にしており、「ロンドン三部作」とも呼ばれています(この三作に内容のつながりはありません)。

 

2.キャスト

 主人公の女子大生サンドラ役は、スカーレット・ヨハンソンウディ・アレンがこの一つ前に撮った『マッチポイント』にも出演しています。スカーレット・ヨハンソンといえば、近年は『アベンジャーズ』シリーズのブラック・ウィドウで有名ですが、彼女の本当の魅力を知るのにはブラック・ウィドウでは不十分。スカーレット・ヨハンソンは、そもそもすべてがセクシーなんですから、戦闘スーツなんか着せなくても良いんです。

 

 ウディ・アレン作品のスカーレット・ヨハンソンは、もろ見せは一度もないですが、端々にセクシーさが見られて嬉しい。今回も眼鏡をかけてバタバタした女子大生なのに、とてつもなくセクシー。セクシー度で言えば『マッチポイント』の方が上でしたが、今回は水着姿が見られるのでポイント高(ビキニでないのが惜しまれる)。

 

 ピーター・ライマン役は、ヒュー・ジャックマン。『X-MEN』シリーズのウルヴァリンや、ミュージカル映画レ・ミゼラブル』(2012年)『グレイテスト・ショーマン』(2018年)などで有名ですね。今回もイケメンです。

 

 ウディ・アレンの凄いところは、毎回こういった超売れっ子俳優を起用できること。どの作品にも、2、3人は誰でも知っている有名人が出ています。ウディ・アレン作品の製作費から見て、それほど高いギャラを提示しているわけではなさそうなのに、これは凄い。監督自身の人望に依るところが大きいのでしょうか。

 

 そして、マジシャンのシドを演じるのは、ウディ・アレン自身。『アニー・ホール』など、自分で監督してメインキャストも演じるということを、この人はしばしばやります。今回はマジシャン役ということでしたが、ウディ・アレン自身がマジックが好きで、冗談好きでもあるので、たぶんウディ・アレンという人はシドそのままの人なのでしょう。

 

 俳優としてのウディ・アレンを観ていると、この人が現代に生まれていたら絶対にジェシー・アイゼンバーグ『ソーシャル・ネットワーク』などに出演)になっていただろうなとふと思いました。早口で常に何かしゃべっている感じとか、何かしらに没頭しているオタクというところが共通しています。時代が違うので、ウディ・アレンはマジックやジャズのオタクですが、今なら確実にITやサブカルが似合うオタクになったしょう。ちなみに、ジェシー・アイゼンバーグウディ・アレン監督の『カフェ・ソサエティ』(2016年)に主演しています。

 

3.アガサ・クリスティー風とは

 この映画の紹介文でしばしば見られたのが、「アガサ・クリスティへのオマージュ」という言葉。私は、アガサ・クリスティが好きで、かなり小説も読んでいるつもりなので、この文言はちょっと気になりました。

 

 正直、この映画を観てもそんなにアガサ・クリスティ風だとは感じなかったのですが、言われてみればその要素がなくもない。まずは、主人公像。探偵でもなんでもない若い女性が、探偵もどきで冒険をするという話は、クリスティ作品には意外と多い。「秘密機関」から始まるトミー&タペンス・シリーズのタペンスはその筆頭だが、他にも「茶色の服の男」のアンや「シタフォードの秘密」のエミリーなど、クリスティの小説に登場する女性素人探偵のキャラクターはとても多い。そのいずれも、行動的で正義のためにひた走るという特徴があり、クリスティ作品の中でも愛すべき存在となっています。

 

 『タロットカード殺人事件』のサンドラも行動的な人間であるので、この系統に属するのかもしれません。しかし、サンドラは容疑者に対して恋心を抱いてしまいます。クリスティの小説では、容疑者になってしまった彼氏を救うために捜査をする女性はいるものの、容疑者だとわかっていて恋に落ちてしまうことはありません。ここは、ウディ・アレン要素が強くでています。

 

 そして、タイトル。邦題はミステリー風味が強いですが、原題はscoopなのでミステリー要素はなし。まあ、映画もそういうことだということです。個人的には邦題の「タロットカード殺人事件」は、竹本健治の「トランプ殺人事件」やヴァン・ダインの「僧正殺人事件」を想起させるので好きですけどね。もし、内容がタロットカードに沿って人が殺されていく見立て殺人だったら、これはまさにアガサ・クリスティがやりそうなことでした。

 

4.らしいラスト(ネタバレ)

 この映画の何が一番ウディ・アレンらしかったって、それはラスト。殺人事件を扱っていて、あれほどケロッとした結末にする(出来る)のはウディ・アレンしかいません。観ていて最初は、スカーレット・ヨハンソンはよく死ぬなあぐらいに思っていたのですが、そんなことはありませんでした。まあ、この映画の雰囲気でいきなり主人公が死んでも、重くなりすぎるような気がしますからね。サンドラとは関係なく、シドが勝手に死んでいるっていうのは、ちょっと面白い。

 

 ここに、アガサ・クリスティ味は特にありません。クリスティだったら、必ず最後はどんでん返しです。犯人を別の人に見せかけて、実は違いましたーというのがクリスティの得意技。今回ならば、ずっとピーター・ライマンが怪しいので、犯人はたぶんシドかサンドラ。でも、クリスティならば観客がそう予想することすらわかっているので、もっと凄いだまし方をするはず。なんてことを勝手に思います。

 

 でも、この映画だって、実はどんでん返しがあったんです。ピーター・ライマンがタロットカード殺人事件の犯人だと見せかけて、実際に彼が手を下したのは一人でした。ただ、ここがよくわからないんですよ。もともと、ピーターは殺人犯ではなかったのだから、秘書を殺す必要がなかったじゃないですか。だから、たぶん殺したのは最後の娼婦だけじゃなくて、すべてではないにしてもタロットカード殺人の何件かは彼が犯したということになります。だったら、全部彼がしたってことでもほとんど同じじゃないの?とも思ってしまいます。無駄なひねりという印象もしてしまいます。

 

5.まとめ

 『タロットカード殺人事件』は、タイトルにそぐわず、ミステリー要素は薄いコメディ映画でした。コメディと言っても、ウディ・アレンらしくコミカルなもので、爆笑するような類のものではありません。この雰囲気が好きならよし、そうでなければ暇というそういう作品。コメディ映画として気楽に観れば、これはこれで面白いのかなと思います。ときどき観たくなる、胃に優しい雰囲気の映画です。

 

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