今回の古典映画は1951年に公開された『地球の静止する日』です。自分もそんなに古典映画を観ている方ではないので、現代的な目線で感想を書いていきたいと思います。
※『地球が静止する日』(2008年)は、この映画のリメイクです。
1.あらすじ
冷戦下のある日、突然空飛ぶ円盤が地球にやってきて、ワシントンD.C.に着陸した。そこから出てきたのは、人間の姿をしたクラトゥという宇宙人とゴートという名前の巨大なロボットだった。強大な破壊力を持つ彼らが、地球にやってきた目的とは何なのか!?
監督は、『ウエストサイド物語』(1961年)や『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)で知られるロバート・ワイズ。ミュージカル作品が特に有名ですが、『アンドロメダ…』(1971年)や『スタートレック』(1979年)などのSF作品も監督しています。
2.洗練されたデザイン
始めに目につくのは、全面銀色の空飛ぶ円盤とロボット。なんにもないツルツルの円盤と、これまたツルツルの大型ロボット。これほど究極にシンプルな造形だと、かえってイケてる。近年は、アイアンマンやパシフィック・リムといったごちゃごちゃしたロボットも多いので、ここまでスッキリしているのはむしろ潔いです。これよりシンプルなのは、『インターステラー』(2014年)のTARSぐらいですかね。
そして、クラトゥという宇宙人が出てくるのですが、これは完全に人間。この映画で描きたいのは、恐ろしい宇宙人が地球を襲うというものではないので、これは必然だったのかもしれません。英語では、外国人など自分と違うところから来た人のこともalien(エイリアン)と言いますから、そういう意味を掛けたのではないでしょうか。
3.社会風刺ド直球
タイトルこそ『アルマゲドン』(1998年)のようなパニック映画を連想させますが、内容は社会風刺に満ちたもの。『コンタクト』(1997年)や『メッセージ』(2016年)といったタイプのSFでした。
序盤の病室のシーンから冷戦のことに触れられており、そこで「人間とは愚かだ」と発言するなど、最初からテーマはかなり明確。1951年というと、第二次世界大戦の記憶が生々しく残っていたころだと思うので、相当な危機感があったのでしょう。
核兵器に対しては特に強く警戒しています。当時の人たちが知っていたかどうかはわかりませんが、1951年当時、世界には463基の核兵器がありました。冷戦末期の80年代後半には、その数は6万基を越えました。現在までにだいぶ数は減ったものの、それでも約1万基もの核兵器が世界中に存在しています。
これだけの数があれば、地球上のすべての生命を殺すことは十分可能。1951年でさえ、これほどの危機感を持っていたのだから、現代の人々はさらに意識的にならなければならないはずです。しかし、第二次世界大戦の記憶は薄れ、核兵器撲滅にはまだまだ程遠い状況です。今になっても、この映画のメッセージは薄れるどころか、むしろより重要性を増していると言えます。
4.愚かな人間(ネタバレ)
この映画で最も愚かに描かれているのは、クラトゥと仲が良い子供ボビーの母親ヘレンと付き合っている男。この男がちょっとバカすぎるんですよねえ。
ヘレンはろくにクラトゥと話もしていないのに、この男は自分よりもクラトゥが好きなんだろうと言ってヘレンをなじります。そして、自分が有名になれるからという理由だけで、彼女の言うことを一言も聞かずにクラトゥのことを通報。
これほどアホなのはこの人ぐらいですが、他にも人間の愚かは諸々に表れています。冒頭で、クラトゥが親書を取り出そうとしただけで、発砲した兵士もそうですね。しかし、残念なことに、黒人が白人警官に対して、少し怪しく見える動きをしてしまったために射殺されるという事件は、実際に起こっています。
alien=「自分たちとは違う存在」に対する人間の態度というものも、この映画では描かれているわけですね。そういった中で、上手く協力し合い、共通の課題に対処していくことが理想だと。本当にそんなクラトゥの世界のようなことが実現できれば、どれほど良いのでしょう……。
5.まとめ
『地球の静止する日』は、こんな感じで社会的な主張が強く込められた映画でした。さすがに50年以上前ということで、特撮技術はかなり地味ですが、本作の主題はそこにはなく、ストーリーでちゃんと魅せてくれるので今でも十分面白く観れらる作品です。
加えて、この宇宙人像は『E.T.』(1982年)や『コンタクト』などにも受け継がれています。また、このテーマ性は『第9地区』(2009年)や『メッセージ』といった作品でも扱われています。こういった名作SF映画の原点を知ることができたので、個人的にはかなり満足できました。
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