カンニングを描いたタイの映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』。面白いとは聞いていたものの、これほどスリリングで、刺さる作品だとは思っていなかった。タイの映画にも、目を向けなきゃなあ。
あらすじ
小学校のときから優秀な成績を収めてきた優等生のリンは、進学校に特待生として転入。そこで出会った親友のグレースが成績で困っていると聞き、カンニングを手伝うことに。リンはそれをビジネスにし、多くの生徒にカンニングをさせて良い成績を取らせるが……。
スリリング!
テストでのカンニングという、一見地味な題材を扱っているにも関わらず、この映画は非常にスリリング。試験監督にバレるんじゃないかというスリルを、グイグイと煽ってきます。実際に、カンニングをしようとしたら、自分なんかはものすごくビビると思うんですが、その緊張感がそのまま伝わってきます。カンニングをしているだけの画ではどうしても地味になってしまうはずですが、そこをこれほどスリリングに見せられるのは、上手い!
カンニング計画の面白さ
カンニングといえば、よく出来る人の答案を見せるというのがベーシックな方法かもしれませんが、これは同時に最も危険な方法でもあります。なぜなら、答案用紙を見せるという行為は目立ちやすく、見つかったときの言い逃れのできないからです。
そこで、リンはより巧妙なカンニング方法を考えます。これが、よく練られた犯罪計画を立案するのに似ていて面白いんです。リンは、最初は手でピアノを弾く真似をすることで、仲間に答えを教えます。これなら多くの人に答えを伝えらて、試験官に見つかっても誤魔化せそうなので、なかなか上手い方法です。
その傍ら、前半にはコミカルな場面もところどころ見られます。例えば、2回目の試験のときは、試験場の皆が一斉にリンの方を向くところなんかもあったりして、ありえないんだけどクスッと笑わせられます。
最後のSTICの試験で、これでもかというぐらいにトラブルが続くところなんかは、さすがにちょっと笑えてきたりもします。試験官にバレそうになるのはもちろん、スマホは割れるわ、ピアノの音で邪魔をされるわって、さすがにそこまでトラブ続きではないだろ(笑)
絶対的な不平等
この映画がよく出来ているのは、そういったエンターテインメント性だけでなく、格差問題を背景に扱っていることにもあります。リンや、もう一人の特待生のバンクは、比較的貧しい家庭の出身です。一方、カンニングを依頼するバットなどは、裕福な家庭の出身です。
それは、まず学校に対して送られる賄賂に表れています。いくら勉強ができたところで、お金がなくては進学校に入ることすら難しいのです。逆に、お金さえあれば、そう進学校に入ることも難しくはないのかもしれません。
この経済格差は、カンニングという行為にも表れます。というのも、裕福な子は優秀な人にカンニングを依頼することができるのです。一方、優秀で貧しい人は、それを断るのが難しい立場に置かれてしまいます。
カンニング自体も、貧困で優秀な子の方が不利な立場に置かれることになります。なぜなら、答えを教えるのには様々な工夫をしなければならないのに対し、答えを見る方のリスクははるかに小さくなります。よって、カンニングをさせる子の方が優秀なのにも関わらず、カンニングで捕まる可能性が高いのです。今回の場合も、最終試験であるSTICにおいて、その不平等さは顕著でした。
映画的に考察するなら、つまりは経済格差というものを、カンニングにおけるリスクに投影したのだと考えることができます。結果としては、その目論見は見事に成功していて、私たちは深刻な格差問題について考えさせられることになります。
STICとは
ちょっと蛇足ですが、映画の中で出てきたSTICという試験について解説しておきます。どうやら、STICという名前の同様のテストは存在しなさそうです。ですが、それに酷似したものとして、SATというテストがあります。これは、アメリカの大学に進学したい人のための試験で、各国で実施されています。映画で扱われていたものは、2016年以前の旧形式に似ており、SATでは実際にマークシートと小論文の試験が課されていました。
映画では時差を利用してカンニングを行っていましたが、これが実際に可能のかというと、可能なのです。過去には、それで捕まった人もいます。ただ、もちろんそのようなカンニングを防止するために、問題用紙の持ち出しは厳禁など、セキュリティは厳しいそうです。くれぐれも、映画の真似をしないように。
蛇足ついでに、センター試験の場合はどうでしょうか。センター試験が行われるのは2020年までで、2021年からは新しく大学入試共通試験というものに変わるのですが、それでもほとんどの問題がマーク式なのは変わりません。
センター試験は、日本国内でしか行われていないため、時差を利用したカンニングは不可能です。しかし、指で解答を教えることができなくもなさそうです。というのは、試験場によっては人数がとても多く、とても試験官がすべてを監視できているようには感じられない場合もあるからです。また、試験場の構造によっては普通に前の人の解答用紙が覗けてしまうところもあったそうで、なかなかカンニングを完全に防ぐことはできていないのかもしれません。
でも、しないでくださいよ。もちろん。この映画を観たなら、カンニングをしたいという気は起きないとは思いますが。
まとめ
『バッド・ジーニアス』は、自分が観たことのある映画の中では、間違いなくトップクラスのスリルを体感させられるものでした。同時に、経済格差問題なども扱っていて、学ぶところも多かった(カンニングの方法じゃないよ)。加えて、カンニングとはこんなにハラハラさせられるものだとわかったので、自分は間違ってもカンニングには加担したくないなとも感じさせられました。