映画の並木道

古今の映画や海外ドラマについて紹介しています。ネタバレは基本的になく、ネタバレするときは事前にその旨を記しています。

映画『女王陛下のお気に入り』~女王様は孤独なのだ~

f:id:presbr:20191209160708j:plain

 今年(2019年)のアカデミー賞を賑わせた1作、『女王陛下のお気に入り』を観ました。今年の上半期は、個人的に忙しく、映画館に行けなかったので、ようやく観れたという気持ちです。

 

 

あらすじ

  18世紀初頭、フランスと戦争状態にあったイギリスはアン女王によって治められていた。しかし、奔放な性格で病身のアンに付き添い、操ることで、実質的に政治を握っていたのは幼馴染のレディ・サラだった。そんな宮廷に、サラの従妹で、没落した貴族の娘であるアビゲイルが侍女としてやってくる。

www.youtube.com

したたかなレディ・サラ

 当初、アン女王の側近で、”お気に入り”だったのはアンの幼馴染であるレディ・サラでした。側近とはいえ、実質的に女王を操り、国政を握っています。アンに対しては、あめとむちのような姿勢も感じられ、時に厳しく接する一方、時にお遊びに付き合うなどして、上手くアンの心をつかんでいました。

 

 しかし、その態度のきつさゆえ(これは正直さの表れなのだが)、アビゲイルに勝つことが出来ず、アンからの寵愛を失っていまいます。それでも、アンはずっとサラからの手紙を待ち望んでいたように、サラに対するアンの心が完全に失われたわけではありません。幼馴染というアドバンテージと、サラのそれまでの策はなかなかに強力だったのですね。

 

策士アビゲイル

 サラの従妹で、新たに宮廷にやってきたのがアビゲイルです。最初は、侍女として働いていたものの、徐々にアンに好かれていき、地位を高めていくことになります。かなりの策士という印象を受けました。嘘も平気でつき、女王様に好かれるためには、何でもします。サラとはスタート地点が違うこともあって、上昇志向にたいする執着には底知れないところがありました。

 

 特筆したいのが、エマ・ストーンの体当たり演技。馬車から落とされ、冷水を浴びせられ、突き倒され、アンの「脚をもむ」ことまでします。アカデミー賞を獲った後も全く妥協をしない、エマ・ストーンの女優としての底知れなさも感じさせられました。

 

孤独なアン

 それまで、サラやアビゲイルに操られ続けていたように見えた女王アン。しかし、実際に勝ったのは他ならぬ彼女であったのです。サラとアビゲイルとの戦いでは、アビゲイルが勝ったように見えます。しかし、アンの心はいまだにサラに強く惹かれている部分もあります。そして、最後にはアンは、アビゲイルの本心にも気づくことになります。結局、サラもアビゲイルも完全にアンを操ることは出来なかったのです。

 

 ここで、際立ってくるのがアンの孤独さ。幼馴染のサラは去ってしまい、新たな恋人だと思っていたアビゲイルも、結局はそうではなかったことに気づいてしまいます。女王という何でも出来る身分でもあるにも関わらず、より孤立していってしまうところは、何とも悲しいところであります。

 

 演じたのは、イギリスのオリビア・コールマン。本作における演技で、アカデミー賞主演女優賞を受賞しました。子供っぽいだけのように見えて、実は子供を亡くした悲しさや孤独を抱え持つアン女王の演技は、確かに見事でした。

 

 オリビア・コールマンと言えば、この時の受賞スピーチがとても面白かったのが、自分にとっては印象的でした。下馬評では、グレン・クローズがほぼ確実だと思われていたところでの受賞だったので、本人もかなり驚いていた様子。とても素直で良い人だと感じさせるスピーチで、一気にオリビア・コールマンのことが好きになりました。

www.youtube.com

新たな宮廷ものとして

 『女王陛下のお気に入り』は、宮廷ものらしく、どろどろとした人間関係や権力争いが描かれています。また、宮廷の美術や衣装も豪華絢爛で、目を楽しませてくれます。一方で、アン女王の情緒不安定なところや、アビゲイルが受ける様々な仕打ちなど、思わず笑ってしまうようなところもあります。そんな思いっきり不謹慎ではあるんだけど、しっかりと宮廷物としての面白さやクオリティを備えた作品でした。