アーハハハハ、ククククク、アーハッハッハハ、ハーハーハー、ククク、アーハッハッハ、ハハハハハ、アーハハハハハ
もうこの笑い声は、耳から離れない。
1.あらすじ
大都会でコメディアンを目指す傍ら、ピエロとしての仕事をしているアーサー。しかし、少年たちにいじめられ、コメディアンとしても成功せず、疎外感を覚える。そんな中、同僚にもらった銃で、襲ってきた青年たちを殺したことで、彼の人生の歯車は大きく狂いだす。
アーサー役が、ホアキン・フェニックス。『教授のおかしな妄想殺人』(2016年)では、殺人に取りつかれる教授を演じていました。詳しい紹介はこちらでしています。
ホアキン・フェニックスが、今回はガリガリになり、怪演を披露しています。何といっても、怖すぎる。走り方や笑い方はジョーカーでありながらも、そこにいるのはまだ悪の帝王にはなっていない青年。ジョーカーは名優が演じてきた役ですが、彼は見事にその役目を果たしたと言えるでしょう。
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— Joker Movie (@jokermovie) September 8, 2019
2.ジョーカーとは
すでに色んなところで、ジョーカーやバットマンがどんな人物なのかは書いてあると思うので、ここではさらっと触れておきます。
舞台はニューヨークにそっくりな大都会ゴッサム。ブルース・ウェインは、バットマンとしてゴッサムの悪党たちを退治していた。そんなバットマンの宿敵が、ジョーカー。究極の悪を体現した存在です。
他にも、ブルース・ウェインの親の話とか、アーカム病院の話とかもありますけど、自分はそこまで詳しくないので割愛させてもらいます。自分より詳しい人が、すでにたくさん書いているので。
3.彼は引き返せたのか(ネタバレ)
アーサーは、なるべくしてジョーカーになったのか。それとも、ジョーカーにならない道があったのか。彼の辿った道筋を振り返りながら、考えていきましょう。
まずは、子供時代。もう、これは不幸としか言いようがないです。実際に、DV夫や児童虐待事件が起こっているのは事実です。確か、面白くもないのに笑ってしまう病気も実際にあるはずです。つまり、ここまでは実際に起こりうる不幸なのです。
そして、アーサーはコメディアンを目指す一方、ピエロとして働いています。これ自体は、至極真っ当なことです。母親の看病もしているので、むしろ心優しい人の部類に入るのではないでしょうか。
しかし、そんな彼は社会からは完全に見捨てられています。本人は、何もしていないのにも関わらずです。市の福祉プログラムは打ち切られ、子供をあやしてあげても邪険に扱われるだけ。でも、こんなことは現実の日常と大して変わりはしません。無関心・無干渉が推奨されているような雰囲気があります。
アーサーに大きな転機が訪れるのは、地下鉄で青年らを射殺したときです。射殺自体はリンチをしてきた彼らにも責任はあり、過剰防衛ではあるものの、アーサーの状況を考えればやむをえず起こった出来事なのかもしれません。しかし、彼は最初こそおどおどしていたものの、やがてこの事件を「すっきりした」と語るようになります。
そこからは、雪だるま式に彼を取り巻く状況は大きく変化していきます。射殺事件は、ゴッサムの格差意識を露わにすることになり、各地でデモが起こります。一方、アーサー自身は、自分の出生についての真実を知り、これまでの人生の意味を大きく揺るがされることになります。
ここまで来たら、もう止められません。トーマス・ウェインには無視され、憧れのコメディアンには馬鹿にされます。デモはますます過熱し、ピエロを支持する声は高まっていきます。
最終的に、彼はマレー・フランクリン・ショーで人々の前に”ジョーカー”として姿を現します。”ジョーカー”となった彼は、人々から注目されるようになります。かつてのままでは、どうやっても抜け出せなった疎外感から、ついに”ジョーカー”になったことで抜け出すことが出来た瞬間でした。
4.すべては必然である(ネタバレ)
こうやって見てみると、すべてが実にスムーズに進んでいくのです。何の矛盾もなく、ただ不幸が重なり、彼はその立場にいたならばそうせざるを得なかった決断をし続けてきたにすぎません。
これは誰にでも起こりうることだ、とまでいうつもりはありません。しかし、もしも同じ立場に立ったら果たしてどうでしょうか。この映画を見た後では、完全に自信を失ってしまいます。自分が、なぜこれまでちゃんと正しい(あくまでも、自分が決めた定義に従うと)行動をしてこれたのか、よく分からなくなります。一歩踏み外すだけで、人生は一気に堕ち得るのだと考えると、とてつもなく恐ろしくなります。
5.まとめ
これほどの衝撃作は、初めて見ました。ひたすらに恐ろしくなります。まずは、アーサー=ジョーカーに対して。次に、そんなジョーカーの気持ちが少なからず理解できてしまう自分に対して。そして、いつでも踏み外すことのできる将来に対して。
ぜひ、劇場で見てほしい。こんな作品には、そうそう出会えるものではありません。そうは言っても、かなり重い作品ではあるので、無理はしなくても良いですけど。『ジョーカー』を見て、口直しをしたい方、あるいは『ジョーカー』なんて鬱な映画は見に行きたくないという方は、『イエスタデイ』をおすすめします。
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↑「キリングジョーク」というアメコミは、ジョーカー誕生の物語が描かれた作品です。今回の映画とは全く異なるものなので、ぜひこちらも読んでみてください。