映画の並木道

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映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』~理想のお父ちゃん~

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 時代は、SNSです。連絡はLINE、近況報告にTwitter、調べものはYouTube、トレンドはInstagram、暇つぶしにTikTok。自分もいわゆる”ジェネレーションZ”(物心ついた時から、インターネットが当たり前の世代)の一員なので、皆本当にこれらを駆使しています。そんな中で、ブログで四苦八苦している自分は、もしかしたら異質かもしれない。

 

 

1.あらすじ

 自分のYouTubeチャンネルも持つケイラだったが、中学生活が終わる間際に「クラスで最も無口な子」に選ばれてしまう。この印象を変えようと、ケイラは中学最後の一週間に自分を変えようと努力をする。

youtu.be

 

 監督のボー・バーナム自身もYouTube出身で、映画監督としては異例の経歴を持っています。ケイラを演じるのは、エルシー・フィッシャー。これからが期待の新星です。

 

2.現代の陰キャ

 ケイラは、今の言葉で言うところの「陰キャ」です。一応陰キャの説明をしておくと、「陰気なキャラ」の略で、イケてない人のことを指します。対義語は「陽キャ」で、こちらはイケてる人を指します。

 

 ジェネレーションZ以前にもイケてない人は当然いたでしょうが、今の陰キャとはタイプが違います。今の陰キャは、人とのコミュニケーションをとらなくても、SNSを結構やっている場合も多いです。普通にTwitterのフォロワーが何百人いたりすることもあります。中には、大阪大学の某理系サークルのように、陰キャを自称していながらYouTubeでとても人気が出て、イベントまで開いてしまう強者もいます。

 

3.ケイラの場合

 ケイラもそういったタイプの陰キャです。友達はあまりいませんが、SNSはばっちりやっています。YouTubeに動画も投稿していますが、たいていのYouTuberと同様に、再生回数はさほど多くありません。それでも、個人的にはそれほど悪くない生活を送っていたのでしょう。

 

 しかし、「クラスで最も無口な子」に選ばれたことで、その気持ちは変わります。「自分も陽キャの仲間入りをしよう」と一念発起するのです。それから、なんとも涙ぐましい努力を始めます。パリピの集まっているパーティーに行ってみたり、気になる男子に言い寄ってみたりするのです。

 

 ここのあたりが、すごくリアル。いきなりパリピばかりの場所に放り込まれたら、自分だってそうなりそうです。その「自分の居場所ではない」感じが、痛々しいほどに伝わってきます。

 

 それほどの説得力を与えているケイラの造形が実に良い。ちょうど親近感が持てるぐらいの容姿なのです。まあ、ぶっちゃけて言ってしまえば、美人というタイプではないです。中学生なので、普通ぐらいだと思うのですが、それがこの役ではぴったりでした。もし、セレーナ・ゴメスなんかがそのままこの役をやっていたら、この物語に説得力は皆無だったでしょう。(普段のエルシー・フィッシャーは、普通に可愛いです)。

 

4.お父ちゃんが良いんです

 そんな主人公のケイラも好きなんですが、ケイラのお父ちゃんはもっと好きです。もう面白すぎます。バリバリの思春期のケイラに対して、上手く接しようとするも空回りばかり。お気に入りはこのシーン。

 

父「ひとつだけ聞いてくれ」

ケイラ「わかった」

父「……」

ケイラ「何を言いたいの(怒)?」

父「今、考えてるんだよ」

 

 表情もなかなか秀逸で、笑えてくる。でもね、良いお父ちゃんなんですよ。まず、母親がいない中、男手一つで娘を育て上げたのはすごい。そして、苦労しながらも、何とか娘とコミュニケーションを取ろうとしている姿勢が素晴らしい。

 

 ラストでお父ちゃんがケイラに語るところは、胸アツ。たぶんすべての親が思っているであろうことが、ストレートに言葉で表現されていて、心に刺さる。自分も人の子なので、素直にとても感動してしまった。

 

5.まとめ

 新しい青春映画の主人公像として、『エイス・グレード』のケイラはエポックな存在かもしれない。『フェリスはある朝突然に』(1986年)のフェリスほどの陽キャは稀にしても、青春映画の主人公がここまで陰キャなのは珍しい。ケイラは現代をリアルに切り取ったキャラクターであるし、少なからぬ人たちは共感を覚えるはずです。

 

 本作は、決してSNS文化を批判するものではないし、人と仲良くすることが大事だよと伝えたいわけでもない。「ありのまま」に生きることは、難しいだろうけれど、どこかでちゃんと守っていたいものです。自分はそんなことを感じました。

 

 現在、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』はヒューマントラストシネマ有楽町などで公開中。

 

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