ドラマ『メグレ警視』は、フランスの名探偵メグレを、ローワン・アトキンソンが演じた推理ドラマです。フランスを舞台にしているものの、英国ミステリー風味満載。コメディ俳優としてお馴染みのローワン・アトキンソンの新たな面も見ることができます。
あらすじ
パリ警視庁司法警察局の警視メグレ。彼がモンマルトルで起きた女性連続殺人事件や宝石商殺害事件に挑む。
予告編(第1話)
全2シーズン 各2話 一話約90分
製作は、イギリスのテレビ局ITV。『Mr.ビーン』『ダウントン・アビー』『刑事フォイル』などを放送してきた、伝統ある民間放送局です。
ジョルジュ・シムノン
メグレ警視は、ベルギー出身の作家ジョルジュ・シムノンが生み出したキャラクターです。「怪盗レトン」(1929年)に初登場して以降、「メグレ最後の事件」(1972年)まで100作品以上に登場しています。名探偵コナンに登場する目暮十三警部の名前の由来はこのメグレ警視です。
シムノンは、ベルギー出身ですが一般にはフランスの作家とされています。フランスの推理作家の中では、一番人気といっても良い人です。メグレ警視以外の小説だと、「雪は汚れていた」(1948年)などが傑作として知られています。
シムノンのメグレ警視シリーズには、あまり派手なトリックは登場せず、メグレ警視は犯人や被害者の心理を理解することで事件を解決していきます。探偵のタイプとしては、同じく人間の心理に注目する探偵エルキュール・ポアロに近いでしょうか。ポアロはベルギー出身で、フランス語もしばしば話しますから。
メグレ
このメグレを演じるのは、ローワン・アトキンソン。『Mr.ビーン』や『ジョニー・イングリッシュ』シリーズで、面白いおじさんを演じています。もはや、ローワン・アトキンソン=Mr.ビーンという人も多いと思います。
ただ、『メグレ警視』を見るときにはそのイメージを捨てなければいけません。このドラマでは、ローワン・アトキンソンはまったくふざけません。真面目です。Mr.ビーンのイメージがあまりにも強すぎて、今にも変顔をするんじゃないかと思ってしまいますが、そんなことはしません。
彼が演じるメグレは、よく静かに考えています。警察への批判や、捜査が上手くいかないことで常に頭を悩ませています。そして、メグレは妻を愛する人物です。今でも、奥さんと散歩をするほど仲が良いです。奥さんを心の支えとして、彼は毎日陰鬱な事件に立ち向かっていきます。
英国ミステリー
『シャーロック・ホームズの冒険』から続く英国のミステリードラマの特徴として、米国ドラマのような派手なシーンが少なく、謎解きをメインにストーリーが進んでいく点があります。また、最近では主人公の探偵にフォーカスした名作も多いです。『SHERLOCK/シャーロック』の大ヒットは、記憶に新しいところです。
『メグレ警視』の雰囲気は完全に英国ミステリーです。こういった作品をよく観ている人にとっては、とても心地よいもの。爆発も銃撃戦もほとんど起こらず、謎と人間模様にフォーカスされています。
ストーリーもよく出来ています。謎自体は『SHERLOCK/シャーロック』や『新米刑事モース/オックスフォード事件簿』ほど複雑ではありません。その代わりに、メグレや犯人の心理がよく描かれています。特に、様々な”愛”が含まれていたのが印象的でした。シーズン1第1話の結末は、愛のカタルシスという感じでものすごい結末を迎えます。
個人的に一番面白かったエピソードは、シーズン2第1話。何度も事件の様相がひっくり返る展開もさることながら、愛の強さを感じさせられるストーリーが面白かったです。
まとめ
『メグレ警視』は、英国ミステリードラマのDNAを受け継ぐ正統派ミステリーでした。英国ミステリーが好きな人にはもちろんおすすめですが、話がそれほど複雑ではないので、英国ミステリーの入門編としても最適です。
また、ローワン・アトキンソンが真面目な役をやっている数少ない作品でもあります。彼に付きまとうMr.ビーンのイメージを一度捨て去る必要がありますが、その上で見てみるとなかなか良い演技をしていることがわかります。
最後に、ドラマの原作をまとめておきます。
シーズン1第1話 「メグレ罠を張る」ハヤカワ文庫
シーズン1第2話 「メグレと殺人者たち」河出書房
シーズン2第1話 「メグレと深夜の十字路」河出書房
シーズン2第2話 「モンマルトルのメグレ」河出書房