北欧ミステリーはすごい! という噂は常々聞いていたのですが、これまで小説も映画もほとんど観られていませんでした。でも、ミステリー好きな自分がこの大きなフィールドをみすみす見逃すわけにはいかないと思い、先日観たのが『特捜部Q キジ殺し』(2014年)。なるほど、これは面白い。
1.あらすじ
特捜部Qの刑事カール・マークとアサドは、20年前に起こった双子惨殺事件の再捜査を始める。その中で、キミーという重要人物が浮かび上がり、彼女を捜索することになる。
北欧ミステリーと言えば、ハリウッドでもリメイクされた『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』(2009年)を思い浮かべる人も多いかもしれません。今作には、この『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』の脚本家も携わっています。
2.特捜部Qとは
『特捜部Q キジ殺し』は、特捜部Qシリーズの2作目になります。自分は、これが一番有名なので、てっきり一作目だと思っていたのですが、違いました。でも、作品ごとに内容のつながりがあるわけではないので、どの作品から見始めても大丈夫です。
特捜部Qシリーズは、デンマークの作家ユッシ・エーズラ・オーステンの作品が原作になっています。この原作自体がとても人気があって、北欧だけでなく、日本やアメリカ、中国などでも翻訳されています。現在までに発表されているのは、次の7作。
特捜部Q-檻の中の女ー (2007年)
特捜部Qーキジ殺しー (2008年)
特捜部QーPからのメッセージー (2009年)
特捜部Qーカルテ番号64- (2010年)
特捜部Qー知りすぎたマルコー (2012年)
特捜部Qー吊るされた少女ー (2015年)
特捜部Qー自撮りする女たちー (2016年)
いずれも、ハヤカワ・ポケット・ミステリ及びハヤカワ文庫で、翻訳版が出版されています(ポケミスって、持っているとカッコいいんですけど、ちょっと高いんですよねえ)。また、『カルテ番号64』までの4作は、映画化されています。
3.北欧映画
冒頭にも書いた通り、自分はこれが北欧ミステリー初で、北欧の映画自体も『偽りなき者』(2013年)ぐらいしか観たことがなかったと思います。
こういうときに、最初に困るのは言葉と人物名。言葉が当然ながら英語ではないので、字幕をちゃんと見ないといけない。そして、人名もディトリウとかウルレクとか、耳なじみがないので覚えにくい。でも、こういったことはインド映画と同じで、徐々に慣れてくるものです。
一応、この映画はミステリーというジャンルにはなっているのですが、謎解き要素はあまりなかったように感じました。序盤で、色んな事件が一気に出てくるので、ちょっとビビりますが、実際はそこまで複雑にはならなかったのは安心しました。
4.ファイル#2(ネタバレ)
北欧ミステリーってこういうことなんだ、と思いました。英国ミステリーみたいな謎解き重視というわけではなく、人の心理を深く探るようなスタイルなんですね。
観ていて最初は、キミーは二重人格なんじゃないかと思ったんです。教師のところで、自分から抱いてほしいと言っておきながら、行為が終わった直後に態度が豹変したり、人もいないのに、誰かに話しかけているところとか。
でも、実際はそんな話ではなく、実はもっと悲しく苦しい真実がありました。真相を知ると、キミーが本当に気の毒。何が一番気の毒かって、それはいまだにディトリウを愛していることです。
若い時に、ディトリウを愛してしまったのは仕方ないのかもしれませんが、結果的にそれは大きな過ちだったのです。キミー自身、元から少々過激なところはあったようですが、ディトリウを愛してしまったことで、その過激さはエスカレートします。しかし、ディトリウがその愛に応えることはなく、最終的にキミーは暴行をうけ、子どもも亡くなってしまいます。
ここで、彼を最低の男だと切り捨てることが出来れば、彼女もまだ救われたかもしれません。しかし、そうはできなかったのです。最後まで彼を見切ることが出来ず、死をともにすることになるのです。
そんなキミーの姿を目の前にして、何もすることができなかったカール。こっちも辛いよ。
5.キジ殺しとは(ネタバレ)
ちょっと気になるのは、「キジ殺し」というタイトル。「キジ殺し」とは言っていますが、自分が観たところ、キジは殺されていません。もしかしたら、原作ではキジ殺しが登場するのかもしれませんが、そこは不明。おそらく、何か象徴的な意味が込められていると考えるのが自然でしょう。
北欧では、現在でも狩猟が比較的盛んで、その獲物としてキジはよく狙われます。そのことを考えると、キジとはキミーのことになりますね。ディトリウたちによって暴行の被害を受けた者は多くいて、この人たちは確かに獲物となってしまいました。しかし、一番の獲物はキミーであり、彼女はディトリウらによって食い物にされたのです。
日本語には「カモにする」という表現がありますが、デンマークでは同じことを「キジを殺す」とでも言うのでしょうか。でも、これだけではキミーの愛という要素が、タイトルには含まれないことになりますね。これが一番のテーマであるのに。自分が、考えすぎなのかな?
6.まとめ
『特捜部Q キジ殺し』は、ミステリーというよりは、人間ドラマの面が印象に残る物語でした。胸をえぐってくるような展開で、観ていてあんまりすっきりはしないんですね。やるせない気持ちばかりが残ります。でも、面白かったので、前作や次回作も観たいと思います。
そうそう、2作目だからなのか、主人公のキャラクターがまだまだわからない。特に、アサド。普段は、ほとんど活動していないように見えるけど、大事な時にちゃんと力を発揮するタイプのようです。ここは、もっと掘り下げたいなあ。
↓原作(ハヤカワ文庫版)
特捜部Q-キジ殺し (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ ユッシ・エーズラ・オールスン ] 価格:1,144円 |
↓英国ミステリーは謎重視