映画の並木道

古今の映画や海外ドラマについて紹介しています。ネタバレは基本的になく、ネタバレするときは事前にその旨を記しています。

映画『アメリカン・アニマルズ』~一線を越えた先にあるもの~

John James Audubon’s Birds of America

 

 『さよなら、退屈なレオニー』の後に続けて『アメリカン・アニマルズ』を見てきました。こちらの主人公は4人の大学生で、これまた自分と同年代。個人的には、こっちの方が共感できて面白かったです。

 

 

1.あらすじ

 退屈な大学生活を送っていたスペンサーとウォーレンは、何か特別なことを求めていた。ある日、二人は大学図書館にある1200万ドル以上の価値がある本を盗み出す計画を立て始めた。そこに、秀才エリック、すでに実業家として成功していたチャドが加わる。果たして、この強奪計画の顛末やいかに。すべて実話です。

 

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 本作の特徴的な点は、実際に犯罪を実行した人たちや、事件の関係者が出てくるところにあります。だから、本作は事件の再現VTRをそのまま映画にしてしまったような感じです。もちろん、テレビの再現VTRよりははるかにクオリティが高いですが。また、証言者たちの記憶も完全ではないので、人によって食い違う部分も出てきます。だからこそ一層、他の実話ベースの映画より現実味があります。

 

 余談かもしれませんが、本作のポスターがかっこいいです。犯罪映画の雰囲気が伝わります。

  

2.若気の至り

 主人公の4人の大学生は退屈こそしているが、落ちこぼれではありません。むしろ、優秀な方とさえ言えます。スペンサーは美術の才能があり、ウォーレンは大学にスポーツ入学、エリックは成績優秀、チャドはすでに実業家。たぶん普通に過ごしていれば、それなりに良い人生が送れそうです。しかし、それこそが彼らにとっては問題なのです。このままでは、普通の退屈な人生を送ってしまう。それが原動力となって、今回の犯罪計画を立案することになるのです。

 

 特に、スペンサーの場合は、悩みはより深い。彼は芸術家を目指しています。過去の偉大な芸術家は皆何かしらの悲劇を経験しています。だから、自分が偉大な芸術家になるためには、このままでいてはいけないのです。大きな不自由もなくこれまで生きてきたスペンサーにとっては、「特別な何か」はどうしても必要だったのです。

 

 犯罪を計画したは良いものの、4人ともそれなりに真っ当に過ごしてきたので、大きな犯罪などしたことがありません。悪人ではなく、善人なのです。本を盗むだけならともかく、特にネックになるのは、その前段階としての図書館の司書を「無効化」するにことです。ここでは、どうしても暴力が必要になってしまいます。しかし、暴力行為をしたいなどとは誰も思っていません。このジレンマが彼らには、いつまでも後を引くことになります。

 

3.ずさんな犯行計画

 当然、犯罪について素人の彼らは強盗計画について詳しくないので、何かから学ぶ必要があります。インターネットも活用しますが、『スティング』(1973年)『レザボア・ドッグス』(1992年)『オーシャンズ11』(2001年)などの犯罪映画からも情報を得たようです。だが、彼らは素人なので、オーシャンズのようにうまくはいきません。たくさんの粗相をします。だからといって、これを間抜けと言えるかといえば、自分はそうは言えません。初めてのことは誰しも上手くいかないものだから、仕方がないことです。

 

 このように、立場的には私たちとそう変わらない(あなたが一流の犯罪者でなければ)大学生による犯行なので、犯行シーンにはかなり緊迫感があります。プロの犯罪者なら、なんだかんだ鮮やかにやるので安心感があるのですが、彼らの場合はそうではありません。いつどんな失敗をするのか分かりません。計画があっても、それを実行するだけの度胸を彼らが持ち合わせているのかも、その時にならないと分かりません。観客も自然と手に汗握ることになります。

 

4.まとめ

 悪人ではない大学生がどうやって犯罪を犯すのか、その動機は何なのか。自分だったらそんなことはしないと断言できるのか。犯行後の彼らに待ち受ける運命とは。人生を退屈だと感じたことがある人には、ぜひ一度観てみることをおすすめします。

 

 ここで描かれる動機や行動には、100%共感できるという人は少ないかもしれません。しかし、そんな行動に出てしまわないまでも、少しは犯罪行為の実行を考えたことがあるのではないでしょうか。それは、本当に妄想程度であるかもしれないし、あるいは具体的に考えていたという人もいるかもしれません。少しでも考えたことがあるのなら、あなたはこの映画の主人公に成り得た人物の一人です。

 

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