映画の並木道

古今の映画や海外ドラマについて紹介しています。ネタバレは基本的になく、ネタバレするときは事前にその旨を記しています。

映画『CUBE』~レブンは何者か(ネタバレ)~

f:id:presbr:20191004003002j:plain

 この記事では、『CUBE』(1997年)に出てくる数学について解説していきます。ネタバレを含みので、未見の場合はお気を付けください。また、この記事は前の記事の続きになりますので、ぜひこちらも読んでみてください。

 

前の記事:映画『CUBE』~緊迫の90分~ - 映画の並木道

 

 『CUBE』は『π』(1998年)などより、ずっと数学面で見ごたえがあります。理系必見。とは言っても、ここに出てくる数学自体は高校基礎レベル程度なので、そこまで難しいものではありません。数学に自信がある人は、映画を見てからこの記事を読むのがおすすめ。ですが、映画を見ながらこの謎を解くのはほぼ不可能なので、予習がてら読んでもらっても良いと思います。

 

 

1.罠の謎

 まず最初に彼らが解いたのは、どの部屋に罠があり、どの部屋なら安全なのかを知るための数字です。各部屋には、123 456 789 のように3桁の数字が3組割り振られています。始めは「この3つの数字の内、1つでも素数の場合はアウト」だと思われました。ちなみに、素数とは1とその数自身以外で割り切ることができない正の整数のことです。実際、それでいくつかの部屋はクリアしました。

 

 しかし、3つとも素数でもアウトの部屋が見つかったため、この法則は崩れます。そして、正しい法則は「3つの数字の内、1つでも素因数の種類が1つだけの数字があるとアウト」だと気づきます。素因数とは、数字の約数のうち素数のもののことで、数を素因数の積の形で表すことを素因数分解と言います。

 

 例: 4 22

   15 3 × 5

   63 32 × 7

 

 素因数分解は1つの数字につき、1通りの表し方しかできません(数学的に証明される)。そして、素因数の種類とは、素因数をしたときの素数の数のことです。上の例だと、4の場合は2の1個、15は3と5の2個、63は3と7の2個となります。

 

 彼らは、なぜ最初に法則を素数だと勘違いしたのかというと、素数の素因数は必ず1個だからです。素数を素因数分解すると、出てくる数字はその数自身のみなので1個になります(例えば、31を素因数分解しても素因数は31しかない)。最初のうちは、部屋の番号にどれも素数が紛れ込んでいたので、そのような間違いをしてしまったのでしょう。仕方ないです。

 

2.部屋の謎

 中盤で、彼らはこのCUBEには、26×26×26=17576個の部屋があることに気づきます。尋常じゃない数ですね。そして、先ほどの3つの数字はデカルト座標を表していると説明されます。デカルト座標と言うとかっこいいのですが、つまりは直交座標、普段使っている座標と同じです。デカルトさんが発明したからこの別名がついています。

 

 どうやって座標を表しているかというと、それぞれの桁の数字を足したものが左からxyzになるそう。つまり、123 456 789 の場合は、x座標は1236y座標は45615z座標は78924となります。ただし、これはあくまでも初期状態を表しているだけ。実は、この数字には部屋がどのように移動するかという情報も隠されているようです。

 

 私は、登場人物で数学担当のレブンが「移動を表すものと言ったら……」と言ったときに、これはベクトルだなと私はてっきり思いました。ベクトルとは、要は矢印のことですから、移動を表すのによく使われます。座標との相性も良いので、ベクトルが出てくるものだと確信しました。

 

 しかし、レブンは「順列組み合わせよ」と言うのです。え? 順列にしろ組み合わせにしろ、移動を表すというのは初耳。そこからその説明をされるのですが、一回聞いただけではよく分かりません。見終わってから改めて考えると、これは順列でも組み合わせでもないことが分かりました。適当な言葉を使わないでもらいたいです。そもそも「順列」と「組み合わせ」という言葉はありますが、「順列組み合わせ」という言葉はありません。

 

 その移動の法則というのを説明していきますが、数字を文字に置き換えて書かせてもらいます。その方が分かりやすいので。部屋の番号がabc def ghi (文字はいずれも09までの整数)とします。すると、

 

 最初の位置:( a+b+c , d+e+f , g+h+i )

 次の位置:( a+b+c , d+e+f , g+h+i ) ( a-b , d-e , g-h ) = ( 2a+c , 2d+f , 2g+i )

   その次の位置: ( 2a+c , 2d+f , 2g+i ) ( b-c , e-f , h-i ) = ( 2a+b , 2d+e , 2g+h )

   その次の位置: ( 2a+b , 2d+e , 2g+h ) ( c-a , f-d , i-g ) = ( a+b+c , d+e+f , g+h+i )

 

 こんな感じで、3回目には元の場所に戻ってきます。そんなことを言っている場面もありましたね。

 

3.レブンの謎

 以上の謎は、多少言葉の誤用は見られましたが、おおむねちゃんとしたものです。ですが、最大の謎はレブンにあります。レブンは本作において、数学ができるということで大活躍します。しかし、数学に多少のなじみがある人なら分かると思いますが、この人って数学ができるんだかできないんだかよく分からない

 

 パッと見は、確かにレブンは数学が出来る人に見えるのです。部屋の番号を見て素数に気づくのはさすが。結果的にこの推測は少し間違っていたのですが、初手にしては上出来です。そして、座標に気づくのも鋭い。部屋の移動の法則に気づいたのは、もはや天才的ですらあります。加えて、前半の素数調べでは一回も計算ミスをしなかったよう。これも地味にすごい。

 

 ですが、数学が本当にできるのか怪しい場面も、ちょくちょく出てきます。素数の法則に気づく場面で、早速その様子が見られます。部屋の番号が素数か調べてみようとするときに、「645……違う」「372……違う」と答えます。確かにこの二つの数字は素数ではありません。しかし、気になるのは回答するまでにかかった時間。645は5の倍数であり、372は2の倍数なので、ともに素数ではないのは明らかです。これが13の倍数とかなら時間もかかるのですが、2や5の倍数など誰でも一瞬で分かります。それなのに、少し考えてから答えているのです。

 

 極めつけは、本当の法則が素因数の種類の数であることに気づいた場面です。ここでレブンはいきなり「こんな計算は天文学的よ」と言い出します。えー。さっきまで素数の計算が出来ていたのに、急に何を言い出しているの?ちょっと面倒にはなるけど、素数かどうかの判定と、素因数分解の計算はほとんど同じです。だから、3桁の数字の素数判定ができる人にとって、3桁の数字の素因数分解は天文学的な計算ではありません。命がかかっているのだから、そのくらいの努力は惜しまないで!

 

4.レブンの正体

 さて、この奇妙な数学女子のレブンは一体何者なのか。ここまで見てきたことから考えると、彼女は素数を暗記しています。これって、普通ならありえないです。暗記するのがあり得ないほどきついわけではなく、暗記する必要がないからです。数学専攻であるならば、なおさら素数は必要なときに計算して確かめるものだと分かっているはず。しかし、彼女の挙動を見る限り、素数判定の基礎である素因数分解ができないようです。これはつまり、前半で素数を見分けられたのは、いちいち計算していたからではなく、3桁の素数をすべて覚えていたからでしょう。記憶と参照しているから、簡単な数字の素数判定にも時間がかかるのです。

 

 普通は、数学ができる人が素因数分解ができないということはありえません。しかし、レブンは整数が大の苦手なだけだとすれば説明もつきます。素数のことは知識として知ってはいるけれど、苦手だから計算できない。でも、数学的センスはあるから、部屋の移動の法則には気づくみたいな。そこでも、整数とゆかりの深い順列や組み合わせという言葉を間違って使ってしまう。なぜなら、整数に詳しくないから。

 

 たぶん、彼女の専門は解析学とか幾何学なのでしょう。だからといって、整数がそこまでできない人はかなり稀ですが、勉強ができなくはないです。皆さんはバランスよくできるようになりましょう。もしあなたがCUBEに閉じこめられたときには、もっと難しい整数の問題になってしまうかもしれませんから(笑)

 

psbr.hatenablog.com

psbr.hatenablog.com

psbr.hatenablog.com