そろそろ『イエスタデイ』が公開されるころなので、今回は同じくダニー・ボイル監督の『トランス』(2013年)の紹介をしていきましょう。
1.あらすじ
サイモンは、競売人として働いていたが、ある日ギャングと共謀してゴヤの絵画「魔女たちの飛翔」を盗み出す。しかし、記憶を失ってしまい、絵を隠した場所を忘れてしまう。仲間のギャングは、サイモンの記憶を呼び覚まさせようと、催眠療法を用いる。
2.ボイル&マカヴォイ
監督は、イギリスの名匠ダニー・ボイル。『トレインスポッティング』(1996年)で評価が一気に高まり、『スラムドッグ$ミリオネア』(2009年)でアカデミー賞を獲得しています。イギリスの俳優ユアン・マクレガーは、初期の『シャドウ・グレイブ』(1995年)、『トレインスポッティング』、『普通じゃない』(1998年)などで主演を務めてます。彼は、ダニー・ボイルのおかげで今の地位を築くことが出来たとも言えるかもしれません。ザ・ビートルズがいない世界を描いた最新作『イエスタデイ』が10月11日に公開予定。
主演のジェームズ・マカヴォイも、イギリスの俳優。『X-MEN』シリーズの若いプロフェッサー役で知られています。今年11月1日に公開される、ホラー映画『ITイット ”それ”が見えたら、終わり。』(2017年)の続編『ITイットTHE END ”それ”が見えたら、終わり。』では、主演を務めています。
3.プロットVSストーリー
まず、始めに言っておくと、プロットとストーリーは別のものです。ストーリーは「話の内容」であるのに対して、プロットは「話の筋立て」あるいは「話の組み立て方」といったところでしょうか。例えば、『メメント』で考えてみると、「ストーリー」は、あらすじで語られていることで、具体的な物語の内容のことを指しています。一方、『メメント』のプロットは「時系列を逆にして見せる」といったことになります。
物語を語るうえでは、どのように観客に伝えるかという点でプロットも大事になってきます。ただ、プロット自体に内容があるわけではないので、それだけで人を感動させることは出来ません。プロットはあくまでもストーリーを引き立てるものでなければならない、というのが私の意見です。『メメント』がもし、ただ時系列を逆にしただけの映画だったなら、何も面白くないでしょう。『メメント』は、時系列を逆にすることで、主人公の置かれた状況を効果的に演出することに成功していて、面白い映画になっています。
4.『トランス』の場合(ネタバレ)
絵の隠し場所を忘れてしまったサイモンの記憶を呼び覚まそうと、催眠療法を用いるというアイデアは面白いと思います。状況がどんどん深みにはまっていく展開も、なかなか良いです。
ただ、私はどうしても話の進め方に、ぎこちなさを感じずにはいられませんでした。催眠療法を施す女性エリザベスの行動が、いちいち妙なのです。結末を見れば、大体理解はできるのですが、それにしてもぎこちない。この原因は、おそらくプロットがストーリーに勝ってしまっているからだと思うのです。
どうやら、この映画はやや結末に重きを置きすぎたようです。エリザベスの正体に関するどんでん返しを求めすぎて、中盤までの中身が薄めになっています。つまり、「結末でのどんでん返し」というプロットに対して、ストーリーが弱くなってしまったのです。
ボロクソ言っているように思われるでしょうが、それでも『トランス』はよく出来ている方です。結末に驚きがないわけではないですし。ただ、他のダニー・ボイル作品に比べると、ストーリーの弱さが目立ってしまった印象です。
5.まとめ
言ってしまえば、『トランス』は他のダニー・ボイル作品と比べると、やや見劣りがしてしまいます。でも、それはダニー・ボイルが『トレインスポッティング』や『スラムドッグ・ミリオネア』など、あまりにも良い作品を作っているからです。
ストーリーそれ自体は、それほど悪くはないので、見てみても良いと思います。撮影に関しては、さすがダニー・ボイルという感じで、かっこいいです。こういう撮影ができると良いなと思える映画ではありました。