映画の並木道

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映画『ハミングバード・プロジェクト0.001秒の男たち』解説&感想

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 0.001秒を短縮するために、1600kmの光回線を引こうとする人たちを描いた『ハミングバード・プロジェクト0.001秒の男たち』が、先日公開されました。夢を追う男たちの努力と挫折が描かれていて、面白かったです。今回は、この映画のキーワードの解説と感想を書いていきたいと思います。

 

 

1.あらすじ

 証券取引会社に勤めていた、いとこ同士のヴィンセントとアントンは、通信を0.001秒早くすることで、莫大な利益を得ることを計画する。そのために、カンザス‐ニューヨーク間1600kmを直線で光回線を引くという、大プロジェクトを実行に移す実話。

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 ヴィンセント役に、『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)のジェシー・アイゼンバーグ。今回も、得意の早口を見せてくれています。アントン役は、スウェーデン出身のアレクサンダー・スカルスガルド。『ターザン:REBORN』(2016年)でターザン役を演じるなど、イケメン俳優として知られています。そんな彼が、今回はハゲで冴えない中年男性を演じているので、最初は誰なのか全然わかりませんでした。さすがに、恰幅の良い体は隠しきれていないようでしたが。

 

2.キーワード解説

 ここに書くことは、映画を見る前には特別知らなくても問題はないのですが、知っていると、よりこの映画に対する理解が深まると思います。

 

高頻度取引

 この映画のテーマが「高頻度取引」というものになります。これは、コンピューターを用いて、株をミリ秒(0.001秒)単位で売買することで、莫大な利益を狙うものです。IT技術が発展した今だからこそできることですが、ときに莫大な損失を一瞬で発生さるため、市場を崩壊させる危険性も指摘されています。

 

フロントランニング(先回り取引)

 この高頻度取引で利益を得る一つの方法としてフロントランニングがあります。これは簡単に言うと、顧客が買い注文を出したという情報を証券取引会社がいち早く得て、証券会社がこの買い注文よりも安い値段で株式を買い、これを顧客に売るというものです。例えば、100ドルの買い注文が出ていると知ったら、即座に99.99ドルで株を買い、これを100ドルで売るということです。こうすることで、一株あたり0.01ドルの利益が出ます。普通は、これを大量に行うので、合計の利益は莫大なものになります。

 

 他社よりも早く情報を得ることで、このように利益を得ることができるので、通信速度が要となります。ただし、これは証券取引会社が自らの利益を獲得するために行うものであり、顧客の利益が損なわれるため、一般に違法とされています。ですが、本当のところは行われているとかいないとか。

 

アーミッシュ

 本作の中では、どうしても土地を売りたがらない人が出てきます。日本人からすると、なぜここまで強固に断るのか理解しにくいところがあるかもしれませんが、この人たちはアーミッシュだとわかれば納得できます。アーミッシュとは、キリスト教プロテスタントの一派で、アメリカやカナダを中心に存在しています。特徴は、徹底的に現代文明を拒否することで、電気や車は使わず、農業を営むことで自給自足の生活を営んでいます。そんなアーミッシュの人たちにとっては、たとえ足の下であっても、最先端技術を駆使した高速光ケーブルが通ることなど許せなかったのでしょう。

 

 アーミッシュについては、ハリソン・フォード主演の『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985年)で詳しく描かれています。この映画は、サスペンスとしても普通に面白いので、ぜひ見てほしいです。

 

ニュートリノ通信

 本作の中で何度か言及されているのが、ニュートリノ通信です。ニュートリノとは、素粒子の一種で、何でもすり抜けてしまうことを特徴としています。だから、ニュートリノを使えば、NYと東京を直線で結ぶことが可能になるわけで、これが実現すれば通信は桁違いに速くなります。しかし、そう簡単にはいきません。

 

 まず、ニュートリノを発信する装置ですが、これは加速器を用いればそれほど難しくはありません。問題は、受信機の方になります。現在、日本ではニュートリノの検出に「スーパーカミオカンデ」という、5万トンもの水を入れた水槽に検出器をいれた巨大な構造のものを用いています。これほど巨大では、今のところ実用化は厳しそうです。

 

 ただ、ニュートリノ通信が不可能というわけではなく、実際にそれに似た実験も行われています。K2K実験では、つくばにあるKEK加速器から飛騨のスーパーカミオカンデニュートリノを発射し、これを観測することに成功しています。この実験の目的は、ニュートリノ振動を確認することなのですが、応用次第でニュートリノ通信も可能であることを示しているようにも思われます。

 

 アントンがニュートリノ通信を実用化したら、ノーベル賞は確実でしょう。ただ、現状ではまだまだ難しいというところです。ちなみに、映画ではニュートリノとニュートロン(中性子)という言葉が混在していて、よろしくない。中性子線は人体にとって非常に有害な放射線で、こんなもので通信を行われては、人が続々と倒れてしまいます(ニュートリノは人間に無害)。やめましょう。

 

3.男たちの悲願(ネタバレ)

 本作は、比較的淡々とストーリーが進んでいった印象でした。その中で、困難に突き当たりながらも、ひたすらに1ミリ秒の短縮を目指して作業を進めていく男たちの姿が印象的でした。1ミリ秒のために、ここまでのことをするのかと驚かされるばかりです。

 

 ですが、彼らの努力のおかげで光通信は実現するものの、時すでに遅し。彼らが辞めた会社が、マイクロ波を用いて、さらに早い通信を成功させていました。これはつらい。あれだけ苦労しておいて、結局無意味になってしまうのですから、何とも厳しい世の中です。

 

 彼らが、1ミリ秒を追い求めた末に到達した境地とは何だったのでしょう。これは、各々が映画を見て感じてほしいのですが、自分としては彼らはそこに人生の価値とは何なのかと見出したのかなと思います。ただお金のために、1ミリ秒という超短時間にこだわり続けた彼らは、人生において本当に価値のあることとは何なのかに気づいたのでしょう。特に、ヴィンセントは自分の時間が限られているという事実を受け入れ、残りの時間を有意義に過ごすことにします。「無意味な長い人生」よりも、「有意義な短い人生」の方が価値があることに気づいたのでしょう。

 

4.まとめ

 ということで、『ハミングバード・プロジェクト0.001秒の男たち』を見ていきました。0.001秒に賭ける男たちを描いた、熱い映画となっています。特に技術畑の人たちには、おすすめの作品です。現在、公開中なのでぜひ見に行ってみてください。

 

公式サイト

http://www.hummingbirdproject-movie.jp/

 

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