やっぱり、インド映画は面白い。『きっと、うまくいく』はヒューマンドラマの傑作であるし、『バーフバリ』はいうまでもなく史上最強のアクション映画です。そして、今度はサスペンスの傑作までも生み出してしまった。もはや、インドの勢いはとどまるところを知らないようです。
1.あらすじ
盲目のピアニストとして活動しているアーカーシュだったが、実は目が見えていた!ある日、夫婦の結婚記念日にピアニストとして招かれた彼だったが、そこで妻が殺害した夫の死体を発見してしまう。そこから、彼の周りで事態は大きく動いていくことになる。
2.バレる?バレない?(ネタバレ)
最初は、アーカーシュがソフィに一目ぼれするところから始まります。インド映画は、大抵、主人公の男が誰かに一目ぼれするところから始まるものです。
そもそも盲目と思わせておきながら、実は目が見えるという設定からして美味しいので、冒頭からして非常に面白い。本作の、特に前半のサスペンスを牽引していくことになるのが、アーカーシュの目が見えているということが、バレやしないかとひやひやさせるところにあります。それが、殺人事件以前からすでに効いています。
アーカーシュが事件を目撃してから、この「バレるんじゃないか」というサスペンスはさらに増していくことになります。特に、警察署長が家にやってくるところなどは、その白眉といえるでしょう。「新聞読むの?」「いやいや、猫のためのものですよ」というやりとりや、署長がナイフを投げるところなんかは、とてもヒヤヒヤさせられます。
殺人犯のシミ―が、キッチンでいきなり『スクリーム』の仮面を被っているところも良いですねえ。普通に、自分はびっくりしてしまいましたよ。「その仮面、わざわざ持ってきたんか」と考えてしまったり(笑)
3.騙し騙され(ネタバレ)
後半のサスペンスは、前半のものとはまた違ったものになっていきます。アーカーシュが、今度は実際に目が見えない人になってしまうので、ここからは騙し騙されという展開がサスペンスを主導していきます。
ここは、本当に誰が次に何をするかが全然わからないんですよね。アーカーシュ、シミー、警察署長、リキシャの親子、医者の思惑が交錯し、事態は予期しない方向に進んでいきます。
これが、結構皆上手い作戦を使っていたりするのが、また憎らしい。特に、アーカーシュの1000万ドル強奪作戦は良いですよね。自分が殺される危機を見事に回避し、リキシャの親子と医者を味方につけて、シミーを確保し、警察署長を告発することもしています。警察署長の妻に電話をするというのも、良いアイデア。
最後の医者の考えも、決して悪くはないように聞こえるんですよね。シミーは確かに死刑に値する殺人者であるし、彼女の臓器を有効利用するというのは合理的とも言えます。さらには、アーカーシュの角膜移植にも利用できそうだとなれば、良いんじゃないかとも思ってしまうわけです。
でも、アーカーシュは一貫して非暴力主義を通している人物です。シミーを捕らえたときも、彼女を痛めつけることは全くしていません。警察署長からお金を受けとる場面についても、彼はエレベーターに閉じこめるという方法を用いており(実行したのはリキシャの親子だが)、殺すなどといったことはしていません。同様に、彼は最後もシミーから臓器を奪うのは良くないと主張します。
そして、伏線回収のウサギのシーン。最初のウサギのシーンはどんな意味があるんだろうとちょっと気にかかっていたので、ここで来たか!という感じでした。
あと、もう一つの伏線のliver。しょーもねぇオチだなあ(笑)と思いましたけど、そこまで吹っ切れているのなら、全然OK.だって、これはコメディ映画ですもの。
「#盲目のメロディ」ポスターが完成しました!11月15日公開予定です。盲目を装うピアニストが殺人事件を“目撃”!?予測不能なブラックコメディに全インドがブッ飛んだ!「見えてるの?」「見えてないの?」疑いが疑いを招くマーダーミステリー開演♪ #インド映画 pic.twitter.com/mMmLT6cOf3
— 映画「盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~」 (@mmelody_movie) July 30, 2019
4.見える?見えない?(ネタバレ)
議論の的なのが、ラストシーン。アーカーシュは、シミーの角膜こそ取ろうとしなかったのですが、果たして2年後の彼はいまだに目が見えていないのでしょうか?
シミーは亡くなってしまったので、そこから角膜を移植することには、もはや罪悪感もそれほどないでしょう。あるいは、ピアニストとして成功しているようなので、その収入で今回の事件とは関係なく角膜移植を受けることも可能だったでしょう。
これが、本国インドでも観客の間で話題のなったそう。監督も、あえてこの部分は明らかにしていないということだそうです。
自分が思うに、物語として美しいのは、「見えない」という方になります。最初は目が見えていたのですが、本当に見えなくなることで、何かを得ることが出来て、それを失いたくないがために、いまだに盲目であるというわけですね。ただ、この物語においては、彼が実際に目が見えなくなってから得たものは何もありません。色々なことが、ただ不便になっているだけ。
なので、実際のところは「見えている」という方が有力なのかなと思います。もしかしたら、映画で描かれていないところで、実際の盲目になってから何か得たものがあるかもしれないので、その場合は盲目のままでしょう。信じるか信じないかは、あなた次第。
5.サスペンスを彩る歌と役者
主人公がピアニストということで、全編を通して歌が非常に良いですよね。殺人事件を扱っている割に、重い雰囲気の曲はそれほどなく、心地よい音楽が使われています。
アーカーシュの歌声も非常に良い。実は、あのピアノの演奏は、実際に俳優さんが弾いているものらしいです。見事。ラストシーンは、『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリングをやや想起させます。
シミー役の女優さんも良いですよね。どっちに転ぶかわからない不可解な女性という感じが、印象的。
個人的には、警察署長のビジュアルがツボ。立派なヒゲを蓄えて、がっしりとした体格といういかにもな感じ。そんないかつい男が、トイレで逃げ惑う姿は面白すぎる(笑)
ちなみに、インド映画で、音楽がたくさん出てくる割に踊るシーンはありません。最近は、踊らないインド映画の多いので、今さら特に驚くことでもないんですが。それでも、実はミュージックビデオみたいなもので、アーカーシュとその彼女、シミーの3人が踊っているものがあるんですよね。踊っているのは、もっぱらバックダンサーなんですけどね。
6.まとめ
『盲目のメロディ』は、とにかく面白かった。大満足。これほど、話が面白い映画もありません。上映時間は2時間越えと若干長いと思うかもしれせんが、テンポが良く、一瞬たりとも退屈しません。元になった短編映画があるそうですが、もしそれを引き延ばしただけだったら、間延びした感じになります。これだけテンポが良く、先の読めない展開とスリルを見せてくれる、この脚本は本当に上手いと思います。
加えて、心地よい音楽に、個性的で愛らしいキャラクターがいて、そしてブラックなユーモアも効いています。「インド式」なんて注釈がなくても、十分に通用するレベルだし、むしろハリウッド映画よりも面白いと言っての過言ではないです。『盲目のメロディ』は、サスペンスの新たな傑作です。