ウディ・アレンだなあ。彼は、とにかくどんな内容でも、飄々と語ることが出来る人です。
1.あらすじ
新しく赴任してきた哲学科の教授エイブは、生きる気力を失っていた。ある日、悪徳判事の噂を聞き、この判事を殺せば世の中が良くなると考え、判事を殺すことに生きる意味を見出す。一方で、学生のジルはエイブのそんな計画などつゆ知らず、彼に惹かれていく。(2016年公開)
監督のウディ・アレンのことは、『マッチポイント』のときに書いたので、こちらを参照してください。『マッチポイント』の舞台はイギリスだったのですが、今回はアメリカの大学です。ウディ・アレンはニューヨーク出身なので、本来はニューヨークを舞台にした作品が多いです。
2.キャスト
教授のエイブ役は、ホアキン・フェニックス。今まさに『ジョーカー』で盛り上がっている彼です。リバー・フェニックスの弟としても知られています。『グラディエーター』(2000年)、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)、『ザ・マスター』(2012年)などでの演技が高く評価されています。ほぼ確実に今後の彼の代表作は『ジョーカー』になると思いますが。
大学生のジル役で、エマ・ストーン。『ラ・ラ・ランド』(2016年)のミア役で、覚えている方もいるでしょう。他に、『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)、『女王陛下のお気に入り』(2018年)』などに出演しています。ウディ・アレン監督作だと、本作の一つ前の『マジック・イン・ムーンライト』(2015年)にも出演しています。
エマ・ストーンといえば、その特徴的なハスキーボイス。それに、赤毛(地毛はブロンドらしい)。典型的な美人の枠に収まらないところが、女優として活躍している秘訣なのかもしれません。今年11月には、出演作『ゾンビランド ダブルタップ』が公開予定。
3.本当に殺人の話?(ネタバレ)
本作は、一応人が人を殺す話なのですが、そうとは思えないくらいライトなタッチです。同じく人を殺す話でも、『ジョーカー』とは真逆ですね。もう、完全にウディ・アレンの空気です。
でも、この雰囲気に意味がないわけではありません。どうしてこんなライトな感じになっているかというと、それはエイブ自身が今回の殺人を悪だと思っていないからです。
エイブいわく、世の中にはいない方が世のためになる人間がいるそうで、そういった人間を殺すことで世の中は良くなるらしい。完全に『DEATH NOTE』の論理ですね。
哲学科の先生は、変に物事を考えすぎてここまで至ってしまうのでしょうか。でも、実際の哲学の先生で、哲学思想を実践している人ってほとんどいないと思います。だって、哲学はあまりにも多くの個性的な思想であふれていて、実践などほとんど不可能ですから。だから、ためらいもせずに判事を殺してしまうエイブは、哲学科にしても結構恐ろしい人物。
そんな彼には皮肉な結末が訪れてしまうわけですが、こっちとしては一安心。ちゃんとオチるところにオチたなと。エイブほどに罪悪感もないようでは、救いようがありません。仕方ない。
4.まとめ
『教授のおかしな妄想殺人』は、ウディ・アレン味あふれる作品でした。殺人が登場するにも関わらず、物語は飄々と進んでいきます。定期的にウディ・アレンに会いたいなと思うことがあると思うので、そういうときには最適な一本です。
加えて、主人公が哲学科の教授ということで、彼独特の人生観が至る所で開陳されています。参考にしすぎない方が良いとは思いますが(世の中の悪を粛正しようとか思わないために)、これで哲学に興味を持つのはアリかなと思います。「死に至る病は絶望である」と語るキルケゴールあたりから始めてみますか?
ウディ・アレン・イン・UK↓