映画の並木道

古今の映画や海外ドラマについて紹介しています。ネタバレは基本的になく、ネタバレするときは事前にその旨を記しています。

映画『マシニスト』~追いつめられる孤独な男~

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 「人間の想像を超えた限界点から始まる、未体験ショック・ムービー!」というAmazon primeの紹介文につられて『マシニスト』(2005年)を見ました。紹介文だけでは何を言っているかさっぱりなのですが、要はあまり内容を話せない映画なんです。でも、実は結構上手い映画です。

 

 

1.あらすじ 

 機械工のトレバーは不眠症により、一年間まったく寝ていなかった。ある日、アイヴァンという謎の人物に出会い、彼に気を取られているときに同僚に大けがをさせてしまう。そして、次第に彼の精神は侵されていく。

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 あらすじを書いては見ましたが、脈絡がないのでよくわからないですね。予告編は不眠症を推していますが、これはあくまでもひとつの要素でしかなくって、メインではありません。不眠症が体に及ぼす影響とか、そういう話じゃないです。じゃあ、何なのかっていうとネタバレなしでは非常に言いにくい。主人公が何かのせいで、精神がやられていく話と言えばいいでしょうか。

 

 ちなみに、マシニストmachinistは機械工という意味。主人公の職業を表しているだけです。気の利いたタイトルとは言えませんが、これ以上の情報を言いたくないのでしょう。

 

2.驚異のやせ具合

 ネタを明かす前に、主役を演じるクリスチャン・ベールの話をしておきましょう。13歳のときにスティーブン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』(1987年)の主役に抜擢。以降、『ヘンリー5世』(1989年)、『アメリカン・サイコ』(2000年)などで確実にキャリアを重ねていきます。現在も、『ダークナイト』シリーズ、『バイス』(2018年)などに出演しており、ハリウッド随一の演技派俳優という立場を確立しつつあります。

 

 クリスチャン・ベールがすごいのは、役に対するアプローチ方法。毎回とてつもない減量や増量をして観客を驚かせます。本作では、おそらくクリスチャン・ベール史上最もやせている状態が見られます。その体重はなんと54㎏!健康な成人男性の体重が54㎏ですよ。映画のためにここまでするのだから恐ろしい。

 

 しかし、驚くのはこれだけではない。クリスチャン・ベールの次の作品は『バットマン・ビギンズ』。主役のバットマンを演じるには、マッチョでなくてはいけません。そのため、彼は6か月間で86㎏まで体重を戻しました。その差は32㎏。子供1人分の体重を増やしたわけです。この後も彼は作品のたびに、やせたり太ったりマッチョになったりを繰り返しています。本当に体が心配( ̄◇ ̄;)

 

 もちろん、彼がすごいのはその体だけではなく、演技もそう。本作は主人公の精神状態が細かく描かれているのですが、そこをしっかりと表現できるあたりはさすが。

 

3.張りめぐらされた伏線(ネタバレ)

 本作はあらすじでも書いたように、何だかまとまりがないような感じで話が進んでいきます。私は多重人格のお話かなと思ったで、とりあえずはまとまりのなさを解釈することができました。だから、主人公は多重人格でした、でまとまりのないまま終わっても普通の映画にはなるので、それで納得するつもりでいました。

 

 しかし、実はもっと深い理由があったところには、うなりました。上手いなあ。まとまりがなかった事柄が、ラストでひき逃げ事故という事象によりすべての説明がつくのは圧巻。不眠症、アイヴァン、ウェイトレスとその子供、赤い車、謎のメモ、等々。私が特に途中で見ていて不審に思ったのが、車の持ち主を探るために、わざわざ自分から車にひかれるところです。さすがにそれはやりすぎでは、とも思いました。しかし、これも自分がひき逃げをした罪悪感からということであれば、十分納得できます。

 

 本作のキーは「罪悪感」ということになるでしょう。トレバー自身はもともとそれほど悪い人ではなく、コールガールのスティービーとのやりとりを見た感じ、むしろ良い人なのでしょう。しかし、不注意からの事故、そして気の迷いによる逃亡により彼の人生はまったく変わってしまうのです。それ以来一睡もできず、ついには精神の限界がやってきます。その恐ろしさがひしひしと伝わってきます。

 

 精神の限界を最も象徴するのは最後にトレバーが苦しみから解放される場面です。牢の中で、彼は一年ぶりに眠ることができます。自首したからといって、少年が亡くなった事実は変わりませんが、少なくとも自分への裁きは下されるわけです。裁きを下されることで安堵するという状態にまで、彼は精神的に追い詰められていたのです。

 

4.まとめ

 だいたい、最後にはどういう人におすすめするかを書いているのですが、今回はどうしましょう。本作は全体的に陰鬱とした雰囲気なので、明るい気分で見るものではないです。ただ、ストーリーとしては非常に面白いし、クリスチャン・ベールの演技は見ものなので、ちゃんとした映画を見たいときにある程度気合を入れて見ましょう。その期待にはしっかり応えてくれるはずです。