映画の並木道

古今の映画や海外ドラマについて紹介しています。ネタバレは基本的になく、ネタバレするときは事前にその旨を記しています。

映画『ゲット・アウト』~差別問題×ホラー~

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 これまでも人種差別を扱った映画はかなりたくさん作られてきた。だが、『ゲット・アウト』(2017年)は一味違う。ホラーテイストなのである。一見、この二つのジャンルを融合するのは不可能に思えるが、本作は見事に成し遂げている。

 

 ただ、本作はサスペンス要素もかなり上手く、衝撃の展開が待ち受けている。そのため、事前情報はできる限り入れない方が面白い。予告編を一応貼っておくが、観賞前に見ることはおすすめしない。あらすじに関しては、ネタバレに極力配慮して書くようにする。

 

 

1.あらすじ

 アフリカ系アメリカ人のクリスは、白人の彼女ローズの実家に行くことになる。ローズの両親はクリスを温かく迎えてくれた。だが、反人種差別だと言う割に、黒人の家政婦や庭師を雇っていたりするところに違和感を感じる。さらに、クリスは家政婦らの奇妙な言動にも違和感があることに気づく。この家族「何かが変だ!」。

 

 繰り返しになるが、以下の予告編にはネタバレとも思われる描写が含まれるため、本作の観賞前に見るのはおすすめしない。鑑賞後に振り返りといった感じで見るのが良いと思う。

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ちなみに、本作は2018年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞(ダニエル・カルーヤ)、脚本賞にノミネートされ、脚本賞を受賞している。アカデミー賞の作品賞にノミネートされる作品は重すぎてつまらないものが多いのだが、本作はその点エンタメ作品としても面白い。エンタメ性とドラマ性が融合されており、まさにこれが映画のあるべき姿だと感じました。

 

2.監督はコメディ出身

 本作の監督ジョーダン・ピールは実はコメディアンである。本作が監督としては初の作品になるのだが、そこで選んだのはコメディではなくホラーだった。ちなみに、監督第二作は今年公開予定の『アス』。こちらもホラーである。だが、また一癖ありそうな予感がする。こちらも乞うご期待。

 

 コメディ出身だが全く違うジャンルの映画を撮ることに驚く人がいるようだが、私はそうは思わない。日本でも、コメディ出身の巨匠がいるではないか。そう、北野武だ。日本にいる人なら誰でも知っているとは思うが、北野武はコメディアンであると同時に、ヤクザ映画での評価が高い。コメディアンがコメディ以外の映画を撮ることも多いのかもしれない。

 

3.差別主義者は誰だ(ネタバレ)

 以下、ネタバレを含みます。本作はまず、サスペンスとして面白い。何かがおかしいという謎を、しっかりと伏線回収しながら明かしていくところが非常に上手い。そこから脱出していく過程も見ごたえがあり、これだけでも十分面白い。

 

 本作が素晴らしいのは、そのサスペンス要素が人種差別というテーマと見事にマッチしているところにある。登場する白人は皆リベラリストを装っており、口では差別など全くしていないという様子である。だが、実際はどす黒い差別主義者だったりする。そんな社会で生きていかなければいけない差別される側の人間を、本作では描いている。差別される側の人間は、白人によって強制的に都合の良いようにされ、逃げることはできない。さすがに今は奴隷制度もないのでこれほどではないかもしれないが、差別される側の人間が白人の都合の良いように利用されている場面もあるのだろう。

 

 差別される側がどれほど恐ろしいものであるかを、催眠術による強制に投影させて実感しやすく見せてくれる。日本人からすると、人種差別はあまり身近なテーマではないかもしれないが、本作はそんな人たちにも差別の実態を分かりやすく見せてくれる。

 

 ここで水を差すようで申し訳ないが、本作でどうしても気になってしまうのが、催眠術の有効性。そんなに何年もかけ続けられるものだろうか。もちろん、そんなことは本筋と何の関係もないのだが、気にはなってしまう。人種差別を何かに投影するという必要があるので、この設定はやや不自然だが必要だったのだろう。

 

 にしても、きれいな女性には気を付けなければいけませんね(これも差別にあたるのか?)。相手が男にしろ女にしろ、どんな人物なのかしっかりと知らなければいけません。そんなことも終盤思いました。

 

4.まとめ

 人種差別をテーマにした映画って基本的に重いので、あまり積極的に見れないときもあります。ですが、本作はそれほど重いわけではなく、サスペンス要素でもしっかりと楽しませてくれるので、とても見やすいです。ときにはまじめな映画を見たいと思ったら、おすすめです。