映画の並木道

古今の映画や海外ドラマについて紹介しています。ネタバレは基本的になく、ネタバレするときは事前にその旨を記しています。

映画『偽りなき者』~残酷な民衆~

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 『偽りなき者』(2013年)はすごい。あまり気持ちの良い話ではないかもしれないが、本当に上手い映画ってこういうものなんだなと思わされた。

 

 

1.あらすじ

 ルーカスは妻と離婚した後、幼稚園で働いていた。その幼稚園の女の子のクララは、ちょっとした悪戯のつもりで、ルーカスが性的暴行をしたかのような発言を園長に対してする。この疑惑はたちまち大きくなり、ルーカスは仕事を辞めさせられる。しかし、ルーカスに対するいわれのない仕打ちはこれだけでは終わらず…。

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 主演はマッツ・ミケルセン。『007カジノロワイヤル』(2006年)や『ドクター・ストレンジ』(2016年)での悪役、ドラマ『ハンニバル』でのハンニバル・レクター役など怖い役が多めの俳優です。ですが、本作ではそんな素振りはあまりなく、優しくも苦悩する姿が見られます。マッツの演技も本作の大きな見どころとなっています。

 

2.閉鎖的な村

 本作の舞台はデンマークの小さな村。それゆえ、村人は皆知り合いのようなものです。だから、何か疑惑が持ち上がるとかなり面倒。ルーカスは少女に対する性的暴行の疑惑を向けられる。この類の犯罪は、最も忌み嫌うべきものだ。ルーカスは町の人々から様々な嫌がらせを受ける。この嫌がらせがどんどんエスカレートしていくのが、何とも怖い。

 

 人々は、少女は嘘などつかないと思っていて、ルーカスの有罪を信じて疑わない。実際は、子供がうそや空想の話をすることがよくあるというのに、犯罪の卑劣さゆえにその点を失念している。これって、今もありますよね。有罪が確定していない人物の情報を広めたりする人が。そして、民衆はそれを真に受けて、行動にでてしまう。この辺は、リアリティがあってつらいです。

 

3.誠実な男ルーカス

 そんな疑いをかけられてしまうルーカスだが、基本的に耐えるということで対処している。無駄に反論をするわけでもなく、じっと耐え忍ぶ。だが、我慢にも限界がある。分かります、その気持ち。さすがにそこまで皆に疑われては、誰だって頭にきます。そこまで我慢したルーカスはむしろ立派。

 

 ルーカスには、別れた妻との間にマルクスという息子がいる。彼は、父親の無罪を最も強く信じている。やがて、そんなマルクスにも嫌がらせは及ぶことになる。このマルクスに対する父ルーカスがかっこいい。親子の絆を感じられて、すこしだけほっとします。

 

4.ラストについて(ネタバレあり)

 本作は、衝撃的なラストが議論の的にもなる。犯人は誰なのかということが。私に言わせてもらうと、そんなことはどうでもいい。その質問に何の意味があるのかよく分からない。ルーカスは、結局いつまで経っても完全には疑惑を払拭できないのだろう。だから、嫌がらせをする人も消えない。そのことを象徴するのが、ラストの発砲だったのだと思う。

 

5.まとめ

 話は、かなり重いです。見終わって、すっきりというわけにもいかないかもしれません。ですが、話の筋ははっきりしていて、観客を変に困らせるようなことはありません。いつもとはちょっと違った映画体験をしたい人におすすめです。